「小公女」(バーネット)

ありえない話と分かっていても

「小公女」(バーネット/畔柳和代訳)
 新潮文庫

資産家の父をもつセーラは、
7歳の頃、ロンドンの
女子学院に入学する。
特別寄宿生となった彼女は、
聡明で心優しい性格のため、
学院の人気者となる。
しかし10歳の頃、
事業を営んでいる父親の訃報と
事業破綻の知らせが届き…。

わかっています、わかっていますとも。
本作品は五十路を越えたおじさんが
読むような本ではないってことは。
でも「本」とは、自分で読まないと
人に薦めることはできないのです。
そして子どもが本当の意味で
楽しめる作品は、大人だって
十分楽しめるはずなのですから。
加えて本作品の作者は
「秘密の花園」バーネットです。
さらには新潮文庫から出された
新訳版なのです。
というわけで読んだ次第です。

資産家の父親が亡くなり、
セーラはどうなったか?
セーラは院長から屋根裏部屋住まいの
使用人として働くように命じられ、
生活は一変します。
しかし彼女は貧しい暮らしの中でも
“公女様(プリンセス)のつもり”で、
気高さと優しさを失わずに
日々を過ごすのです。

ありえない話だと分かっていても、
何度も涙がこぼれそうになります。
ストーリーも途中から
予想できるのですが、
そしてそのようになるのですが、
なぜか素直に感動できてしまいます。
やはりいい本はいいのです。

何がいいかというと、
やはりセーラのけなげさでしょう。
逆境に負けないのです。
それも歯を食いしばって耐えるような
日本式ではありません。
明るくポジティブに
物事をとらえていくのです。
彼女自身も言うように、
「ほかのものにはならないように」
心がけているのです。
ここが素晴らしいのです。
ともすれば不幸になると
心も同時に荒んでしまう
人間の多い中で、
彼女はどこまでも
「プリンセス」の気高さを
保ち続けようとするのです。
物語だと分かっていても
心を打たれます。

自分も食事を抜かれて
おなかがすいているのに、
彼女はせっかくもらった
6個のパンのうち5個までも
見知らぬ飢えた子どもに分け与えます。
自分が苦しいときに、
同じように苦しんでいる他人のことには
なかなか目が行かないものです。
それを迷わず差し出すのです。
物語だと分かっていても、
なおかつ心に響きます。

明るく爽やかな
海外児童文学の世界がそこにあります。
中学校1年生に、
そして日々の生活に疲れ切った
大人のあなたにお薦めです。
さあ、次は「小公子」を読もう。
あれ、すべて絶版中…。

(2020.4.6)

Rondell MellingによるPixabayからの画像

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA